セウォル号沈没事故の教訓はどこに

転覆したセウォル号

海難事故として「セウォル号」の記憶は比較的新しいかもしれません。改めて当時の事故を振り返ると、今回の知床遊覧船と共通点があるのが分かります。
共通点・・・。それは「数々の人災」です。

<セウォル号沈没事故>

2014年4月16日に大韓民国の大型旅客船「セウォル」が仁川港から済州島へ向かう途中、観梅島沖海上で転覆・沈没した事故。

乗員乗客 計476人
死者299人(修学旅行生325のうち250人死亡)
行方不明者5人
捜索作業員の死者8人

<事故要因>

1)視界不良で運航

当日の濃霧で大型旅客船では1kmの視界が無いと運航中止だがこの時、800mで運航決定。約2時間遅れで出航した。大型船10隻のうち、出港を決めたのはセウォル号1隻のみ。

2)上限の3.6倍(計3608トン)の過積載

運航業者は赤字の為日常的に重量測定を行わず過積載をした。
またコンテナは固定装置を使用せず、ロープで縛っただけの簡易処置。
船体が傾いた時、貨物が海へ投げ出されていくのを乗船していた修学旅行生が目撃。

3)バラスト水が基準の1/4に操作

浮力や重心のバランスに必要なバラスト水。セウォル号の復原力を保つにはバラスト水が約2000トン必要と考えられていたが、事故当時は約580トンしかなかった。担当者は過積載を隠すためバラスト水を減水していたと証言。

4)船員の過失

全ての船員ではないが下記にあげる船員たちの怠惰な行動が指摘された。「今の場所から動かないでください」というアナウンスが数回流れ、4階にいた修学旅行生達が指示に従い取り残され、逃げ遅れた。本体は早く上の階へと誘導するべきだった。

休暇中のシン船長の代行として69歳のイ・ジュンソクが船長を務めたが、事故当初、救命胴衣着用の指示、避難誘導を怠り、船員と気付かれないようにズボンを脱いで真っ先に救助されている。また、最初に突然船体が左に15度傾いた時何も説明をしなかった。

大韓民国船員法では、『船長は緊急時に際しては人命救助に必要な措置を尽くし、旅客が全員降りるまで船を離れてはならない』旨規定している。

三等航海士、操舵手は操舵角度を5度以上回せば沈没の危険があることを知りながらも、15度以上の大角変針によって船を急旋回させその結果沈没。さらに乗客の救護措置を取らず脱出。

ソン一等航海士とパク機関長は、事故が起きた後も乗客の避難誘導をせず、船体が傾く中で缶ビールを飲み、たばこを吸っていた画像が公開され非難を浴びた。船の最下層にいた機関士や操舵手ら6人を含む約30人いた乗組員のうちほとんどが救助されている。

5)運航業者の過失

船長を含め乗組員のほとんどが契約社員、正社員はおらず、副船長は前日に入社したばかりの新米だった。他の船員は救命ボートの取り扱いを知らなかった。

<救命ボートについて>

水圧を感知して膨らむ救命ボートが46艘設置されていたが、実際に使われたのは1艘のみ。これは固定器具がさび付いて外せなくなり、ほぼ全てのボートが使用不能だったためとされ、救助活動を行った警察官も2つのボートを海に蹴落としたが、1つは開かなかった。

20年前の救命ボートがずっと検査されないまま「良好」とされ検査機関が船の運航会社と癒着した手抜き検査の疑いあり。事故後捜査で救命ボートや脱出用シューターが正常に作動しなかったこと、船員の安全教育がなされていなかったことが明らかに。

運航会社の清海鎮海運は故障や衝突などの事故を繰り返している。
2011年4月エンジン故障により622名の乗客を乗船させたまま約5時間航行不能となる。2013年3月燃料フィルター欠陥により約5時間の漂流事故。
2014年4月漁船との衝突事故。

その後運航会社のオーナーは逃亡し、6月12日梅畑で腐敗した身元不明の変死体の状態で発見された。

6)不適切な船体改造

セウォルは1994年に日本で建造され、鹿児島県のマルエーフェリーが鹿児島-沖縄航路で「フェリーなみのうえ」(JG検査船舶)として運行していたもの。

2012年10月1日にマルエーフェリー引退後、東京の商社を通じて、韓国の清海鎮海運に「ほぼ鉄屑同然(スクラップ)」として約8億円で売却された。
改造が施され、重心が日本時代より高くなり、定員数は804人から921人に、総トン数は6,825トンに増加。清海鎮海運は「韓国最大のクルーズ船」と幅広く宣伝。
しかし大型客船の改装を行った実績がなかったと業者が改造した点や改造後も傾斜度検査など十分な検証がされていなかったことが明らかになった。

7)船体検査制度の不備

改造業者が4度以上傾けて検査することができず、自社の安全検査基準を満たしていたので合格させていた。韓国では船舶を改造する際、長さ・幅・深さ・用途の4項目を変更する場合は、海洋水産部長官の許可が必要であったが民間団体である韓国船級協会の検査のみで船首右側にあった50トンのサイドランプ等が除去され左右が不均等となっていたが、この改造も海洋水産部の許可を必要としなかった。

救命ボートの安全点検をおこなった筈の整備会社が、実は検査をしておらず嘘の書類を提出していた。航路ごとの輸送需要予測を基準にした運航認可基準を満たしていなかったが清海鎮海運の幹部が木浦海洋安全審判院のトップに賄賂を渡し偽造書類で認可してもらっていた。

8)船体の故障

2月に実施された特別安全点検では、5ヶ所に不具合があり措置を取ったとする清海鎮海運側の報告を受けただけで、再点検を実施せず。操舵機に電気接続の不良があり清海鎮海運に対して修理申告書が提出されていたとの事だが修理業者は申請書を受け取っていなかったとの事。

9)政治的要因

・セウォル号の定員・載貨重量をそのまま不当認可した仁川港湾庁。
・韓国船級での杜撰な復原力検査。
・海洋警察庁による不適切な運航管理規定審査。
 運航業者より接待を受け未提出書類などがあるにも関わらず承認の便宜が図られたとさ れる。
・船舶運航管理者である海運組合はセウォル号出港前の貨物重量及び車両台数や固定方法の無点検。
・事故後、海洋警察は船内に残る乗客を救出する機会を逃し、現場の状況や移動手段を考慮せず、現場での救出活動に限界を招いた。
・全羅南道・珍島の管制センターの対応が不十分で、交信を通じたセウォル号への救出措置を怠った。
・中央災害安全対策本部の対応が不十分で各機関での連携がとれず事故状況の伝達遅れた。
・傾斜度検査など李明博政権の2009年に、企業コストを削減するために旅客船の船齢制限を20年から30年に延長したことも要因とされている。

< セウォル号の引き上げ作業 >
2017年3月22日 セウォル号引き上げ開始
2017年3月24日 セウォル号引き上げ完了

以上のことから見ても、「セウォル号」は複数の人的ミスや怠慢、利益優先の操作が起因で、これだけの劣悪な条件が揃えば、起こるべくして起きた人災と言えるでしょう。

大きく旋回して傾いた時、異常に気付いた男子生徒が8時52分頃に携帯で消防へ通報。
そして10時17分頃沈没。

今回の知床遊覧船も天候が悪化することを知りながら出航し、無線は故障、乗客の携帯より118番へ通報していたことが分かっています。

<検査不備について>
「安全管理規程」に欠航基準の記載がなく出航。
船首部分に亀裂があったのに中間検査に合格しているのは検査項目に含まれていない為で検査自体の在り方も問題視されています。
無線故障で代替の携帯を10台申請しているがその全てが圏外。
それでも航行出来ている点はほぼ検査スルーと言って過言ではないでしょう。

「類は友を呼ぶ」と言いますが、「負のエネルギー」は雪だるま式に膨らみ、起こるべくして起こる事故をまさに実現させるのです。

世界に衝撃を与えた事故でされ、その教訓が活かされず、いつしか忘れ去れられようとした時に、今回の知床遊覧船事故が日本で起きてしまいました。これは私達への戒めなのかもしれません。

私達は人生の中であらゆるケーススタディを学ぶ機会があります。
直接人命に関わる仕事をしていなくても良心に背くような行為は必ず自分に返って来ますので、こうした事故をきっかけに自分の在り方を見つめ直し、正すへきところは正し、突発的な変化にも冷静な判断ができるようにしておくとよいでしょう。

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